1855年メドック格付で唯一の変更は1973年に1級昇格したムートン・ロートシルト 〜 その特例の背景にはフィリップ・ド・ロスチャイルド男爵の長年にわたる戦いがありました
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バイザグラスのソムリエ松沢裕之です。

メドック格付は1855年の制定以来160年以上もの間、唯一の "劇的な例外" を除いて、変更は一切なされぬまま現在に至っています。

その唯一の例外とは、1973年にシャトー・ムートン・ロートシルトが2級から1級に格上げされたことです。

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 ▲1級昇格を果たしたシャトー・ムートン・ロートシルト1973年のラベル


同じロスチャイルド家のラフィット・ロートシルトは1級なのに、ムートン・ロートシルトは2級でした。
ムートンの跡を継いだフィリップ男爵(1902-1988)は、若い頃からこれが不満でなりませんでした。

その悔しさをバネに長年にわたり品質改良の努力がなされてきたことはもちろんですが、
同時にフィリップ男爵は、財力や政治力を駆使してフランス政府に様々な働きかけを行なってきました。

50年にも及ぶ粘り強い男爵の活動が奏功し、1973年、彼はついにシャトー・ムートン・ロートシルトを2級から1級に格上げさせることに成功したのです。

この、メドック格付の歴史上で唯一の例外は、ロスチャイルド家の財力と政治力があったからこその特例だともいえるでしょう。

この特例を果たした当時の農業大臣は、のちに(1995年)大統領となるジャック・シラク氏でした。

1973年6月21日、シラク農業大臣(当時)は、シャトー・ムートン・ロートシルトは公式に1級格付だとする省令に署名しました。
(もっともボルドーワイン愛好家たちは、公式にそうなる以前からずっと、ムートンの実力は1級並みだと見なしていました。)

家紋にフランス語で書かれているフィリップ男爵のモットーは、1973年に変更されました。

それ以前まではずっと、

「われ1級たり得ず、されど2級なることを潔しとせず、われムートンなり」

と悔しさをにじませる文言が記されていましたが、
1973年ヴィンテージのラベルにおいて、次のように書き換えられました。

「われ1級なり、かつて2級なりき、されどムートンは変わらず」

なおシャトー・ムートン・ロートシルトはラベルの絵柄が毎年変わるのが特徴で、有名画家が絵を描きます。
記念すべき1973年のラベルの絵はピカソが描きました。

(2017年6月29日)